12. 退院後の不定愁訴

昨年6月上旬、術後補助抗癌剤を1クール終えた彼女は退院後1週間すると突然、呼吸困難と胸痛を訴え、順天堂に緊急入院したことは前回書いた通りだが、その時1週間入院し様々な検査を受けたにもかかわらず、結局、突然の発作の原因がわからなかったことが私には釈然としなかった。
不整脈もみられたので心臓に関わる精密検査も行ったが何もわからず、正常に戻ったのでとりあえず今後の抗癌剤は中止にして静養するようにとだけ言われたのだ。
ただ、1クールのみで補助抗癌剤を終えることには私も大賛成であった。

CRTと手術を受けてダメージのある身体にはやはりタキソテール(ドセタキセル)、シスプラチン、5-FUを使用するDCF療法は厳しいものがあるだろうし、この発作は、その副作用であろうことは素人の私でも推測できた。先生方は否定していたが・・・。

私たちは納得の上で患者としての「自己責任」において治療をお願いしているので、万一のことがあったとしても受け入れる覚悟はあるし医師の責任を問うつもりも毛頭無いのだが、最近の医療訴訟などの問題で現場の先生方は、かなり神経質になっているような気がしてならない。
このことはがんセンターでも感じられたことだが、医師と患者はもう少し腹を割って話ができる関係になれればと思う。

さて、彼女は、順天堂医院での綿密な周術期の医療体制と自らの力で幸いにして術後の合併症も起こさなかったが、退院後は食事の嚥下障害や胸部の苦しさやが続く中、どうしても精神的に鬱になるのか、私に何かと不機嫌にあたるようになった。
担当の主治医に相談しても、
「今ある状況に慣れるしかない」と仰るだけなのだ。

食事の大変さや様々な後遺障害があることは他の方々の闘病記である程度は理解していたが、このいわゆる「術後の不定愁訴」と言うのはかなり個人差があるようで、この問題を何とか少しでも解決できないものかとネットなどでいろいろ調べたみた。
しかし、ケン三郎先生の仰るようにこうした術後の問題について道標となるようなWebサイトがこれといって見当たらず、結局は皆様方の闘病記からヒントを探すことにしたのだ。

辿り着いたのはこのブログからもリンクしている闘)四万十川ユースホステルブログ針灸治療の記事だった。
筆者のさっちゃんは食道癌の手術後この治療を数回受けて痛みが緩和し食欲も出たことを書いていた。

早速、ダメモトとばかり近所の針灸治療院などを探してみるとあるクリニックのサイトが目に付いた。
ここは、たまたま以前私が調べていた低用量の抗癌剤治療(休眠療法)や「樹状細胞療法」などの免疫療法を行っているセレンクリニックの提携医院でもあったのだが、何よりも目を引いたのは針灸治療が外来診療のメニューに入っていたのだ。
肝臓癌を専門とする院長のもと食事療法や在宅医療までてがけているという内容にも好感が持てた。

昨年7月中旬、早速、予約をとり院長の問診を受けた後に針灸を処方してもらったが、彼女にはあまり効果が無かったというか身体に合わなかったのだろう。
「もういい」との一言で鍼灸は1度きりで終わってしまったが、院長の話で少しは気分が晴れたようだった。

「胸に鉄板が入っているような苦しさは、痛みからくるものだから痛みは我慢なんてしなくても良い。」と、鎮痛剤のオプソとボルタレンが処方された。
CT、採血、心電図、エコー検査と一通りの検査の後、レントゲンで胃管の通過テストをした結果、順天堂でも言われたようにバルーン拡張の必要なしと診断された。
闘病記を書かれている皆さんのブログを読むと胃管の拡張処置を定期的にされている方々が多いのだが、彼女の場合レントゲンや内視鏡で少なくとも直径1cmは通り道ができているとの診断で今まで一度も拡張をしたことが無い。(ただ、固形物を食べる勇気は今でも無いのだが・・・。)

このクリニックにはそれ以後オプソとボルタレンの処方を受ける為、定期的に通っており、院長の診察も受けているが多少は肋骨辺りの痛みのコントロールはできるようになった。
また、今後、万一再発という事態になった場合でもここならこちらの希望する治療の相談にもいろいろとのってくれそうである


しかし、満足な食事が一生できなくなったことや体力の低下などからくる鬱的な愁訴は今でも残っており、結局は彼女自身があるがままを受け入れ、耐えて強くなるしかないと思うのだ。
欧米ではこうした精神面での術後のフォローアップが進んでいると聞いたことがあるが、日本にはまだ無いのだろうか。

精神的にもろい患者はどうしたら良いのか、大いに悩むところである。

PS:
このブログを読んで頂き、愁訴との取り組みについて体験者の方々から様々なアドバイスを頂いております。
この場を借りて深くお礼申し上げます。

-次回に続く-

注:このブログで述べられる筆者の意見や提案は、あくまで私たちが患者として体験してきた事やネットや書籍で知り得た事をもとにしているに過ぎないものであることをお断りしておきます。

コメント

  1. kuwachann より:

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    体力がない、食べられない、その上まだ痛みがある。鬱になるのは当然のことのような気がします。1センチでバルーンの必要がないというのに驚きました。実は私の医者は18ミリ~20ミリを基本にしているからです。一番最後の拡張の時は、20ミリ開いていたのですが、つまりやすかったので「ポケットになっているかもしれない」(意味はよくわからなかったのですが)、「とにかくQOLをできるだけあげよう」ということでまた拡張してくれました。術後「お豆腐ばっかり食べてる」と訴えたから同情してくれた訳ではないと思うのですが。いつも「今何食べてる?」と聞いてくれます。
    固形のものを食べる勇気がないのは身体がそう訴えているのだと思います。1昨年針の穴ほどの狭窄を拡張してもらった翌日の気持の変化をわすれることが出来ません。「食べられるかもしれない」と本能で感じるのです。もっともその後は食べることによるダンピングを経験することになるわけですが。。。
    「今ある状態に慣れるしかない」、確かにそうですが、少なくとも食管はもう少し拡げられるのではないか、固形のものを味わえることで生きる喜びも大いに湧いて来るから、と同病の経験者としては感じるのですが。

  2. マリア より:

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    雄三さんはじめまして 梅澤先生のblogからこちらに来ました。
    大きなお世話だったらごめんなさい。 
    ご存知だと思いますが、順天堂大学病院には昨年「がん治療センター」が開設されました。 スタッフにメンタルクリニックの医師や管理栄養士がいると聞いています。 
    手術前と同じように口一杯にほお張って、ゴクリとのみ下す事はできないかも知れませんが、小さく切って、良~~く噛んで、少しずつでも食べられる食品が増えると、食事に楽しみが増えるし、食べられる物が増えれば、もう少し体力がつくのではと思います。
    体力がつけば行動範囲が広がり、出来る事も増えるし…。
    例えば…ポトフを作ってジャガイモや人参や蕪の小さな切れ端をスープと一緒に器に入れます。 召し上がる時にスプーンの背で潰してスープと一緒にお口に入れてみてはどうでしょう。 2時間も煮込んであれば、お肉を食べなくてもスープに肉汁が沢山染み出しています。ジャガイモのスープなどと同じですが、ちょっと気分が変わりませんか? 
    昨日、NHKのためしてガッテンでやっていた「湯豆腐に色々なつけたれ」もどうでしょう。
    http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2008q1/20080220.html
    管理栄養士さんは専門家ですから、本人の好みなども聞いて献立などを考えて下さるかも知れません。
    静岡県立静岡がんセンターのhomepageにメニュー例が沢山載っています。
    Web版よろず相談Q&A→第3集抗がん剤治療、放射線治療と食事編
       http://www.scchr.jp/
    「今ある状態に慣れるしかない」のでは可哀想な気がします。
    ちょっとずつでも前に進めれば、希望の光が見えるのではないかと思います。
    「あんなに大変な治療を乗り越えたのに」「手術だって大変だったのにどうして治らないのか」と、奥様は思っていらっしゃると思います。 メンタルクリニックは「患者様のお話を聞くのが仕事」ですから、奥様がつらい想いをご主人以外の人にも吐き出せれば、そしてそれを解ってくれる人がいると、少し違うのではないかと思います。 
    私は母を癌で亡くしました。 食欲がない人に気分良く食べてもらう事の大変さは解ります。
    お力にはなれませんが、応援したいと思います。
    梅の花が咲き始めました。 温かい日にお近くの公園にでも歩きにいってみては如何でしょう。

  3. 雄三 より:

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    kuwachann さん
    コメントありがとうございます。
    ケン三郎先生にも伺ってみたのですが、日本の施設は1cm通り道があって内視鏡が通過すれば特に拡張しないところが多いようです。
    でも、固形物が食べたいと言うのは欲望としては強いわけですから、また、担当医に相談してみようと思います。

  4. 雄三 より:

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    マリアさん
    順天堂の「がん治療センター」のことは昨年から承知していました。
    食道の担当医にも相談してみましたが、あまり積極的に紹介する雰囲気ではありませんでした。
    今は、メンタルクリニックの役割をブログでも書いた近所のクリニックの院長にお願いしているような感じですが、充分とは言えません。
    いろいろと検討したいと思います。
    アドバイスありがとうございました。

  5. oki より:

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    おはようございます。
    先週私はスキルスタイプ胃がんの診断を受けたのですが、
    今日順天堂のK教授(現在は教授になったようです)の
    外来に初めて行きます。
    ステージも進んでいるので、梅澤先生にも相談しようと
    予約をいれているのですが、
    K教授に梅澤先生のことを、相談していることを
    伝えておられましたか??
    それぞれの先生方がどう相手を考えているのか、
    素人にはわからなくて。。。
    隠すのもおかしいなぁと思っているのですが、
    どうすればいいかなと迷っております。
    もしお知恵があれば、お借りしたいです。

  6. 雄三 より:

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    メールにて直接ご返事いたしました。

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