前回まで国立がんセンター東病院での彼女の治療経過を述べてきた。
放射線化学療法(通称ケモラジ、CRT)がうまくいかずその後のサルベージ(救済)手術も直前に不適応となったため、藁をもつかむ思いで順天堂医院に駆け込んだこともあり、本ブログ上での国立がんセンター東病院に対する私の見解には若干厳しいものがあると思う。
しかし、現在も多くの患者さんががこの病院を頼って全国から集まり最先端といわれる医療を受けておられることや、結果として幸運にも完治に至る方々もいらっしゃること、また、院内では極めて真摯に医療活動を実践されている医師、看護師やその他医療従事者の方々も少なくないことも事実であり日本でも有数の癌治療施設であることは間違いないところである。
治療に失敗した患者の身内が語るのは甚だ僭越かもしれないが、この病院での彼女の治療を通じて感じたことや希望することなど1,2点記したいと思う。
まず、この病院には本当の意味での医者が存在するのか?
と、強く疑問に思うのである。
この思いは最初から感じていたことで何も治療がうまくいかなかったから申し上げているのではない。
この病院には国立がんセンターという冠名がついている通り国立の癌研究所の色彩が濃く、「病院も兼ねた国の研究所」と考え直すと納得がいくのだ。
そもそも、通院、入院を暫らく続けるとわかってくるのだが、全国から集ったレジデント(研修医)が多く医師の年齢が他の病院より比較的若く見える、というより年配のベテラン医師をあまり見かけないし、外来での診察時や入院時の回診時でもベルトコンベヤー式にマニュアル通りに患者をさばいている印象なのである。
また、素人なりにネットなどで調べていったことを尋ねようとしても、「けんもほろろ」な対応なのだ。
ここの全ての医師がそうではないと思うが、少なくとも噂を頼りにして行った有名な内科医や最後の「死の宣告」外科医はそうであった。
「研究所」としての使命があるとは言え、患者(特にここの場合、癌患者)は死の恐怖や様々な不安、度重なる検査や治療で心身ともに疲弊しきっているわけで、単なる被験者ではないのだから 「病気」だけでなく「病人」との接し方にもっと配慮して頂きたいと思うのは私だけだろうか。
次に、前にも「インフォームドコンセント」でも述べたが治療に入る前の説明は、多少患者には手厳しい内容となっても「治療のビジョン」を詳細にわかりやすく行って頂きたいと思う。
著効(CR):全病変が4週間以上完全に消失
有効(PR):推定50%以上の腫瘍の縮小が4週間以上持続
不変(NC、SDともいう):4週間以上変化ないか、PR以下・PD未満
進行(PD):新病変の出現、25%以上の病変の増大
全体の症例数中で占めるCR+PR症例の割合が治療の奏効率(%)を表す
上記は放射線や抗癌剤での治療効果の表現用語だが、CT、PETや内視鏡等で肉眼上確認される範囲での表現なのでCRといっても必ずしも治癒を意味しない。
素人の私が、ここで何を申し上げたいかと言うと上記にある
「全体の症例数中で占めるCR+PR症例の割合が奏効率(%)」という部分である。
つまり、癌の大きさが半分以下になった期間が4週間持続すればその治療は「奏効」したことになるというが、自分がそのグループに入ったからと聞いてありがたく感じる患者が果たしているだろうか?
癌は完全消失=治癒しなければ、縮小あるいはCRだとしても再度牙を剥いてくるはずである。
彼女の場合、治療には失敗したが一時的に癌は縮小したので奏効データには取り込まれているのだろうか。だとしたら、何とナンセンスなことだろう。
「奏効率」なる言葉は研究所が生み出した腫瘍内科医のための専門用語に過ぎないと私は思っているが、患者側には大きな誤解とともに伝わってはいないだろうか。
(私自身よく調べるまで誤解をしていたようだ。)
さらに、先ほど述べた「治療のビジョン」について、
がんセンターの「放射線化学療法」の場合、その時点でデータを収集したいと研究者が考えている決められた治療法(プロトコル、レジメン)を全てこなしてから、効果を評価する手法がとられている。
そして、その治療から脱落した患者は他のレジメンさえ受けられず、
「もう治療法はありません」と、(言い方は悪いが)見捨てられるのである。
先に述べた梅澤先生や癌治療の本を多く書かれている平岩正樹先生の表現をお借りすれば、「その病院で行える」治療法が無いのであって、ともすれば患者が希望を無くしかねない言い回しは止めてもらいたいと思う。
また、この「放射線化学療法」は、根治を目指した治療なのでうまくいかなかった(癌が残存した)場合、放射線被曝によるダメージもありその後のサルベージ手術にかなり悪影響を与えるというが、患者の体質が「放射線化学療法」に向いているか事前に判定する手法が確立されていない以上、他のいくつかの病院で行われているように途中で効果判定を行い、場合により手術に変更するというオプションがあっても良いのではと思う。
研究所だから無理な相談かもしれないが・・・。
ただ、患者は癌を治しに来ているのであって研究データを提供しに来ているわけではないのだから、航空機のように「Fail & Safe」の発想があっても良いのではないだろうか。
彼女の場合、「放射線化学療法」前の診断がステージⅢであったが順天堂医院でのサルベージ手術の後の病理検査ではステージⅣa、つまり結果的に癌はケモラジの効果なく進行していたのである。
手術不能宣告の前に、上記のようなオプションがあれば流れは変わったのではないかと今でも思っている。
ところで、「病院の癌治療成績全国ランキング」などのタイトルで例年様々な出版物が刊行されているが、その中に「~年生存率」、「在院死亡率」といった比較がある。
がんセンターのようにそこでの唯一の治療から脱落した患者は、そのデータには含まれないので他の施設に比べ当然数字は良くなることを我々は知っておく必要がある。
さて、全国から集まる癌患者や家族のために国立がんセンター東病院と羽田空港を結ぶ直行シャトルバスある。
私たちが、無念の気持を胸にがんセンターを去る時もこのシャトルバスが到着し、大家族に伴われた患者さんが降り立ってきたが、
「ここに来ればもう大丈夫。」と安心感にみなぎった皆さんの希望にあふれた表情を見たとき私は複雑な心情を抱くのを禁じえなかった。
-次回に続く-
注:このブログで述べられる筆者の意見や提案は、あくまで私たちが患者として体験してきた事やネットや書籍で知り得た事をもとにしているに過ぎないものであることをお断りしておきます。
コメント
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kuwachannさんのところですれ違っていますmamaです。
去年、夫の食道癌がみつかりました。そのとき必死に病院を駆け回り、
治療法を決めかねていた自分たちを思い出します。
雄三さんの文章に頷く部分が多々ありますので緊張感を持って読ませて
いただいております。
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mamaさん、ようこそ。
kuwachannのブログでコメントを時々拝見していました。
ご主人、その後如何ですか?
食道癌の罹患者は他の癌に比べると少ないだけに、直後は慌てますよね。
私も仕事で使う以上に狂ったようにネットサーフィンの毎日でした。
術後も食事の問題や精神面での不定愁訴などの問題を抱えることになるのは皆さん同じなのでしょうか?
今後も宜しくお願いいたします。
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「のどの下の胃袋」さん、室川さん、kuwachannさん・・・・同じ手術といっても、それぞれの方たちの細かい手法は違うのだと思います。問題のほとんどは食事にまつわるものですが、これも一人一人違うようです。奥様のお歳がわからないので失礼ではありますが、女性は更年期という厄介事もいっしょに抱える場合もあるかもしれません。
夫は順調に快復し単身赴任生活をしておりますが、以前よりはずっと帰京する日数を増やして休養するようにしています。スタミナは今一歩というところです。
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私の家内も昨年発症して、雄三さんと同じくネットを隅から隅まで検索しまくりました。オミノさんのサイトもずいぶん読みましたが、ケモラジ礼賛があまりに激しくて、逆に不安を感じました。
そこで、知り合いの病理医に、外科でもなく内科でもない立場から、いろいろ、冷静で客観的な意見を聞くことができたのが幸いしたと思います。
その意見を聞きながら外科の説明を聞いて納得して手術を受けました。半年たちましたが、いまのところ新たな症状もでておらず、このままCRとなってくれることを願ってます。
昨年たどりついたケン三郎さんのブログやkuwachanさんのブログなど、いまだにROMしていて、このブログにたどり着きました。同年代で同時期、同じ立場の雄三さんのブログには親近感を感じて、ついコメントしてしまいました。また時々訪問しますのでよろしく。